大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成7年(ワ)5534号 判決 1999年1月27日

原告

面出孝基

筒井悟

冨永喬

矢野和孝

吉田謙二

原告ら訴訟代理人弁護士

富永俊造

同(但し、ロ事件のみ訴訟代理)

前田修

被告

池添産業株式会社

右代表者代表取締役

池添巳次

右訴訟代理人弁護士

前原仁幸

主文

一  被告は、

原告面出孝基に対し、金八四万〇三〇〇円

同筒井悟に対し、金八七万四三二六円

同矢野和孝に対し、金八五万九一三一円

同吉田謙二に対し、金八四万八〇二五円

及び右各金員に対する平成七年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らが、いずれも、被告に対し、雇用契約上の権利を有することを確認する。

三  被告は、

原告面出孝基に対し、金七九七万一七三一円

同筒井悟に対し、金九四七万一三五四円

同冨永喬に対し、金五四一万九三〇六円

同矢野和孝に対し、金八八九万三五〇二円

同吉田謙二に対し、金八一六万五〇六九円

及び右各金員に対する平成九年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、

原告面出孝基に対し、金一六万七七〇八円

同筒井悟に対し、金一九万九二五七円

同冨永喬に対し、金一一万四〇一一円

同矢野和孝に対し、金一八万七一〇〇円

同吉田謙二に対し、金一七万一七七六円

及び右各金員に対する平成九年九月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、

原告面出孝基に対し、金一七万八八八九円

同筒井悟に対し、金二一万二五四一円

同冨永喬に対し、金一二万二五一一円

同矢野和孝に対し、金一八万七一〇〇円

同吉田謙二に対し、金一八万三二二七円

を支払え。

六  被告は、平成九年一〇月から原告らが被告大阪営業所の原職に復帰するまで、毎月一五日限り、

原告面出孝基に対し、金三四万六五九七円

同筒井悟に対し、金四一万一七九八円

同冨永喬に対し、金二三万五六二二円

同矢野和孝に対し、金三八万六六七四円

同吉田謙二に対し、金三五万五〇〇三円

の割合による金員を支払え。

七  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

八  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

九  この判決は、第一、第三ないし第六項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  イ事件

被告は、

原告面出孝基に対し、金九四万〇三〇〇円

同筒井悟に対し、金一一一万二五七六円

同冨永喬に対し、金五六万円

同矢野和孝に対し、金八七万九八八一円

同吉田謙二に対し、金八八万六七七五円

及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日(記録上平成七年六月一五日であることが明らかである。)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  ロ事件

1  原告らが、被告に対し、雇用契約上の権利を有することを各確認する。

2  被告は、

原告面出孝基に対し、金八一四万四六〇六円

同筒井悟に対し、金九六七万七二五三円

同冨永喬に対し、金五五三万七一一七円

同矢野和孝に対し、金九〇八万六八三九円

同吉田謙二に対し、金八三四万二五七〇円

及び右各金員に対する平成九年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告らに対し、平成九年八月一六日から原告らが被告大阪営業所の原職に復帰するまで、毎月一五日限り、次の割合による金員を支払え。

原告面出孝基に対し、金三四万六五七九円(三四万六五九七円の誤記と思われる。)

同筒井悟に対し、金四一万一七九八円

同冨永喬に対し、金二三万五六二二円

同矢野和孝に対し、金三八万六六七四円

同吉田謙二に対し、金三五万五〇〇三円

第二事案の概要

イ事件は、被告の従業員として勤務してきた原告らが、平成六年一月分から賃金の一部である地域手当等を合理性なく一方的に減額されたと主張して、被告に対し、減額された手当の支払を求めた事案であり、ロ事件は、原告らが、大阪営業所から北九州市門司区新門司の本社への配転命令を受けてこれを拒否したところ、解雇されたが、右は配転命令権及び解雇権の濫用であって無効であるとして、被告に対し、地位確認と未払賃金の支払を求めた事案である。

一  当事者間に争いのない事実等

1  被告は、貨物運送業、倉庫業等を営む、従業員約一〇〇名程度(平成七年七月当時)の会社であり、肩書住所地に本店(平成七年七月一日現住所地に本店移転)を置くほか、昭和六一年一月に神戸営業所を、平成二年五月に東京営業所を開設した。

被告の運送業における主たる営業地域は九州一円及び関西地区であり、その間を阪九フェリーで結ぶというものであった。上り便の集配は、九州で集めた荷を貨物積載車(以下「台車」という。)に積載してトレーラーで新門司港まで牽引し、台車のみをフェリーに乗せて無人航走させ、神戸港で神戸営業所に配属されている被告の運転手が台車を引き出し関西以東の配送先へ配送するというもので、下り便の集配はその逆となる。東京営業所には運転手の配属はなく、神戸営業所配属の運転手が東京営業所の集配に当たっていた。

平成七年一月の阪神淡路大震災(以下「震災」という。)によって神戸港の港湾施設が破壊されたため、阪九フェリーは着岸港を神戸港から泉大津港に移転し、これに伴って、被告も、関西地区の営業拠点を神戸営業所から大阪府泉北郡忠岡町の大阪営業所に新設移転させた。

2  原告らは、被告に従業員として雇用され、神戸営業所に配属されていたが、震災後の大阪営業所への新設移転により同営業所に配転された。

原告冨永は事務職、他の原告らは乗務員(トレーラー運転手)であった。

原告らに対する賃金は、毎月末日締めの翌月一五日払で支給されていた。

3  被告乗務員の賃金は基本給九万一五〇〇円及び各種手当からなっており、被告は、賃金基準を改訂して平成六年一月分から実施した(以下「本件賃金改訂」という。<証拠略>)が、これによると、東京及び神戸営業所に配属の乗務員に支給される地域手当八万五〇〇〇円が五万円に減額されるほか、残業手当(月二一日以上勤務の乗務員に対し、走行距離に応じて支給される手当)の単価が一〇キロメートル当たり二四九〇円から二二四〇円に減額され(率にして約一〇パーセント)、また、手積卸手当は重量によって異なるが二〇トン以上の場合、五〇〇〇円から四〇〇〇円に減額されることになる。

4  被告は、神戸営業所の業績が悪かったことに加え、震災により回復しがたい業績不振に陥っため(ママ)平成七年七月末日をもって大阪営業所を閉鎖すると説明して、同年八月一日付で、所長清水忠幸を除く同営業所従業員全員に本社への配転命令を発した(以下「本件配転命令」という)。

しかるに原告らが右配転を拒否したため、被告は同月末日付けで原告らを解雇した(以下「本件解雇」という)。

二  本件の争点

(イ事件)

本件賃金改定の有効性

(ロ事件)

本件配転命令及び本件解雇の有効性

第三争点についての当事者の主張

(イ事件)

一  原告らの主張

1 被告は、原告らの了解なく一方的に本件賃金改定を実施したものであって、本件賃金改定には次のとおり合理性がなく、無効である。

(一) 被告は、従業員に対し、平成五年一二月下旬、本件賃金改定を通告し、平成六年一月から実施した。

これに対し、原告らは、被告に対し、本件賃金改訂を行わないよう文書で申し入れるなどしたが、抗しきれず、全日本港湾労働組合関西地方阪神支部(以下「全港湾労組」という。)に加入し、平成六年四月同組合池添分会(以下「池添分会」という。)を結成して、本件賃金改定反対運動に乗り出した。

平成六年六月頃、全港湾労組委員長及び池添分会長原告矢野と被告役員との間で協議がもたれ、労組側は、労使間協議が整うまでは従前の賃金に戻すよう申し入れ、被告も協議継続の姿勢を示したものの、その後の経過は、提示を約した財務資料の交付すらしないなど全く誠意のないものであった。

このような従業員との協議や労組との団交を無視した被告による本件賃金改定は、内容の妥当性を問うまでもなく、手続面ですでに違法というべきである。

(二) 被告は、被告の経営窮迫、神戸営業所の業績不振等からして本件賃金改定は合理性を有するものと主張しているが、被告の経営悪化は、先の見通しを誤り平成三年に総工費約二六億円(しかもその資金は金融機関からの借り入れによるものである。)を投じて新門司物流センターを完成させたことが原因であり、神戸営業所は平成四年ないし六年を通じて黒字の収益をあげていた。

また、被告には、関連会社として倉庫部門の一部を独立させた池添ゼネラルサービス株式会社(以下「株式会社ゼネラル」という。)及び株式会社イケゾエがあり、後者は、被告のトンネル会社であって、航走料や燃料費に利ざやを取って被告に請求しており、被告の利益はこれら関連会社に分散されている。

被告は、右期間における部門別損益において神戸営業所の収支は、その売上等に応じて、本社費、金利、車両減価償却費、空車回送費等を負担させると赤字であり、とりわけ傭車による営業(運送取扱営業)に比べ自車輸送による運送業は採算がとれないと主張するが、部門別の採算性を比較する場合には収益との対応が不明確な一般本社費を考慮すべきでないし、金利の大部分は新門司物流センター新設に伴う借り入れによって生じたものであるから神戸営業所が負担すべきものではない。また、車両減価償却費は、過去の償却不足を右期間に負担させていることや実質的にリース契約で供用している車両についてまで減価償却費を計上している点において不当である。さらに、空車回送費は、下り便に比し上り便が少ないため、上り便を空車で回送せざるを得ないことから生じるものであって、本社の受注不足、営業努力不足に由来する費用であり、これを神戸営業所に負担させるのは不当である。被告は、神戸営業所の業績不振を虚構している。

以上によれば、経営合理化は、経営判断を誤った役員の報酬減額や管理職の賃下げ、不動産売却による金利負担軽減などから行うべきであり、このような対策をとることなく、安易に、黒字の業績をあげている原告らの賃金切り下げを行ったことは内容的にも妥当性で(ママ)ない。

2 原告らの未払手当額

原告らは本件賃金改定によって、地域手当を月額八万五〇〇〇円から五万円に減額されたほか、残業手当を一〇パーセント及び手積卸手当(二〇トン以上)を二〇パーセント減額された。この結果、平成六年一月分から平成七年四月分までで、別紙手当金一覧表<略>の合計欄記載の金額を正当な根拠なく減額されているので、右金額について支払を求める。

二  被告の主張

1 本件賃金改定は、手続的にも違法はなく、内容面でも妥当であって、合理的なものである。

(一) 平成五年当時、被告には労働組合は存在しなかったのであるから、本件賃金改定について労働組合と協議交渉する余地はなかった。

本件賃金改定が被告の経営状況等からみて妥当なものであることは後述のとおりであり、被告は、本件賃金改定に至るまでの経費節減の経過や経営状況等を従業員に周知してきており、不意打ちではない。

原告らを除く約九割の従業員が本件賃金改訂をやむを得ないものとして許容している。

(二) 被告は、平成三年頃、北九州市門司区新門司に新門司流通センターを完成させ、本社社屋新設等を含む大型設備投資を行ったが、その後のいわゆるバブル崩壊による長期不況に直面し、設備投資の効果が出る前に、運賃単価の大幅下落、設備投資の誘因であった大口荷主の増産計画延期、諸経費の高騰、設備投資資金借り入れの金利負担等累積する経営圧迫要因の重圧に苦しむことになった。加えて、高額な事故賠償金の支出を余儀なくされ、保険掛金も増額されるなどの事情も重なった。

さらに、神戸営業所は赤字体質であった。すなわち、部門別の損益だけをみると、神戸営業所では平成四年ないし六年にかけても黒字を計上しているが、別に年間約四〇〇〇万円程度の空車回送費が生じている。これは神戸営業所からの下り便用に本社から台車を空車で航走する際の航走料であり、実額経費であって、その半額を神戸営業所に負担させると、利益はほとんど出ないか赤字に転落する。下り便が増加するほど空車回送費は増大し、神戸営業所全体の利益を圧迫することとなる。そのほかに、実額支出ではないが、計算上の経費分担として一般本社費や金利負担、本来行うべき車両減価償却費までを按分すると、神戸営業所全体の赤字操業は明らかであった。

このような事情から、被告は、対外的には売上高の架空計上や減価償却費の過少計上等により決算書類を粉飾して利益を仮装する一方、社内では倒産回避策として、平成四年以降、交際費はじめ事務用品費などの経費節減、役員、管理職の報酬、賃金の減額、希望退職者の募集、社長報酬削減等の人件費節減、航走料の値下げ、金利負担の軽減等徹底した経営正常化の努力を行ってきた。

本件賃金改訂はその延長上の経営努力である。

地域手当は、もともと実労の対価としての性格が薄く、地域不均衡をなくすための調整給として支給してきたものであるが、その額は高額であって神戸営業所配属の従業員は差別的有利に取り扱われていたのであり、その削減には合理性がある。これによって年間五ないし六〇〇万円程度の経費を節減でき、神戸営業所の赤字要因である空車回送費には及ばないまでも、赤字発生を抑制できる。しかも減額後の月額五万円は中小企業の調整給としてはなお、高水準にある。

また、二〇トン以上の手積卸手当は、現実には従前からその作業がほとんどなかったものであって、同手当の削減が従業員の生活に及ぼす影響は少ない。

2 原告らは、別紙手当金一覧表合計欄記載の金額が未払であると主張するが、

(一) 地域手当の三万五〇〇〇円減額は明らかではあるものの、原告らの中には、入社以来五万円しか支給を受けてこなかった者が存し、この場合減額には当たらない。

(二) 残業手当や手積卸手当請求額の算定根拠は不明である。

(ロ事件)

一  原告らの主張

1 原告らは、平成六年一月からの被告による一方的な本件賃金改訂実施に反対して、同年四月一九日全港湾労組に加入し池添分会を結成した。

これに対抗して、被告は、平成六年五月一四日社内に原告らを除く従業員で組織する池添産業労働組合(以下「池添労組」という。)を結成させた。

被告は、平成七年五月頃の取締役会で池添労組執行部の支援を合意したり、その頃、同組合との間で合理化協定ができたとして、池添分会との交渉を全く行うことなくさらなる賃下げ実施に同組合を利用するなどしながら、他方で、平成七年五月下旬頃から六月上旬頃にかけて、清水や本社労務担当相談役丸山が原告ら宅を回り全港湾労組脱退を働きかけたりした。

原告らが、平成七年六月六日本件賃金改定による本件手当請求訴訟(イ事件)を提起したところ、被告は、同年七月末日をもって大阪営業を(ママ)を閉鎖するとして原告らに対し、本社への配転を命じ、原告らがこれを拒否したことを理由に解雇した。

しかるに、被告では、大阪営業所を閉鎖したといいながら、平成七年八月二七日付で運転手を(ママ)募集の広告を出しているほか、大阪営業所では、原告ら解雇後も、所長清水が常駐し、本社からきた運転手らが寝泊まりするなどして現在まで営業を継続しており、その営業形態は現在傭車による運送取扱が中心となっているが、輸送量も震災直後の一時的減少から確実に回復してきていて、増加傾向にある。

被告らは、空車回送費を負担しての自車輸送による運送業は傭車による運送取扱業に比して経費負担が大きいというが、傭車であろうと自車であろうと、燃料費、高速道路使用料、航走料等の経費は同様に生じるのであるし、原告らの賃金が高額に過ぎるということはなく、自車輸送による運送業が採算がとれないとする根拠はない。自車輸送による運送業の方が傭車による運送取扱業よりも利益率が高いのは当然のことであり(そうでなければ運送業は成り立たない)、大阪営業所を閉鎖しなければならない理由はなかったし、現在の営業の実情(大阪営業所の輸送取扱量)からみても閉鎖は偽装というべきである。

以上の経過によれば、本件配転命令及び本件解雇は、被告らが原告らの組合活動を嫌悪して、原告らを被告から放逐するために、大阪営業所閉鎖を偽装して行ったものであることは明らかであり、不当労働行為であり、配転命令権及び解雇権の濫用であり、これらはいずれも無効である。

2 原告らの平成六年一月から平成七年一月までの平均賃金月額(手取り)は次のとおりである。

原告面出 三四万六五七九円

同筒井 四一万一七九八円

同冨永 二三万五六二二円

同矢野 三三万七一四一円

同吉田 三五万五〇〇三円

よって、原告らは、被告に対し、

(一) 雇用契約上の権利を有することの確認

(二) 平成七年九月一日から平成九年八月一五日までの次のとおりの二三・五か月分の未払賃金及びこれに対する平成九年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払

(三) 平成九年八月一六日から、原告らが大阪営業所の原職に復帰するまでの間、毎月一五日限り、右平均賃金額の割合の金員の支払

を求める。

二  被告の主張

1 本件解雇には、正当な解雇理由がある。

前述のとおり、被告は、巨額の投資等による負債を抱え、経営上窮迫状況にあったところに、震災により神戸営業所は壊滅的な打撃を受け、急遽大阪営業所を仮設して営業を継続していたものの、同営業所の業績は悪化し、前年比五割を割り込むなどして、自車による運送業務では空車回送費はおろか、直接経費すら賄えない実情に陥った。大阪営業所は、もともと赤字体質であったところ、震災後の売上の落ち込みは被告の見込みを予想以上に上回っており、早急な阪神地区の物流回復は望めず、そのまま営業を継続すると月々二ないし三〇〇万円程度の赤字が増加累積することが見込まれ、このような先行不安、危機的状況下にあったことから、被告では同営業所の業務の縮小、廃止を迫られることとなった。

被告では、さしあたり、希望退職者を募集して規模縮小により対処しようとしたが、応募者はなかった。このため、大阪営業所の自車による運送業務の存続を断念せざるを得ず、平成七年七月三一日をもって本社移管を実施して集約一体化することとし、同営業所は傭車による運送取扱営業の取次基地として活用することにしたものである。自車による運送業務の本社移管には、独立営業所を維持する上での人件費その他の管理費用を本社に一体化、効率化できること、空車回送費として支出していた部分を、逆に台車を賃貸して傭車先に賃料負担させることができること、高速道路使用料、燃料費、修繕費、保険料等を傭車先に転嫁できること等のメリットがあり、現に、大阪営業所では、平成七年度及び八年度は、傭車による運送取扱業によって利益を上げている。

(なお、右の大阪営業所を運送取扱業の取次基地とし運送業務のみを本社移管したという主張は、被告らが平成一〇年一一月一〇日付準備書面で初めて主張したものであり、それまでは、平成七年七月末日をもって大阪営業所を廃止したと主張していたものである)。

以上のとおり、大阪営業所の自車による運送業務の本社移管には合理的な理由が存するのであり、本社におけるその集約一本化のために原告らに対し本件配転命令を発したことには何らの違法はない。原告らは、配転に不満があったとしても、一旦はこれに応じた上で労使交渉等を行うべきであったにもかかわらず、全く応じようとしなかった。このため、被告ではやむなく原告らを解雇するにいた(ママ)もので、本件解雇にも合理的な理由が存するのであって、違法はなく、有効である。

2 法律上の主張

現行法の運用には、次のような根本的な問題がある。

第一に、労働契約を諾成契約と構成して解雇無効の場合には不就労であってもその間の賃金請求権が発生するものとしているが、解雇無効による救済としては不法行為による損害賠償請求で足りるのであって、現実の労働がない場合には、その経済的評価(労働条件に適合する就労か否か等)はありえないのであるから賃金請求権の発生はないと解すべきである。

第二に、労働者の団結する権利は、個々の労働者が事業主に対して請求権的に有する権利ではなく、特定の事業主を同じくする労働者相互間の法的関係であって、一人組合や少数組合、事業主を同じくしない労働者間の労働組合は憲法、労働組合法が団体行動権等を保障する労働組合ではないというべきである。池添分会は、被告従業員中のごく少数者によって結成されたものであり、かつ、被告を相手取って結成したものでもないので、右のとおり、憲法、労働組合法の労働組合ではなく、これに対する不当労働行為が成り立つ余地はない。

以上によれば、原告らには被告に対する未払賃金請求権は発生しない。

第三当裁判所の判断

(イ事件)

一  証拠(<証拠・人証略>)によれば、以下の事実が認められる。

1 本件賃金改定までの経緯

(一) 被告は、本社を、以前福岡県遠賀郡岡垣町におき、昭和四四年頃から本格的な運送業を行ってきたほか、土木建設業等を併営している。昭和六三年に北九州市門司区新門司一丁目に新門司物流センター(運送部門における新門司営業所と倉庫)を新設し、物流機能拡大を図るとともに、平成元年に損害保険代理や物品販売等を業とする株式会社イケゾエ(被告代表者の妻が代表取締役)を設立して、被告運送部門の経費(燃料費、航走費等)が生ずる取引に同社を介在させるようになった。

平成二年頃には、池添ゼネラルサービス株式会社(被告代表者が代表取締役)を設立して倉庫部門に(ママ)一部を独立させ、被告取引先の貨物の梱包や積込等を行わせるようになった。

被告は、取引先荷主(大和製罐株式会社)の要請から、当該荷主の増産計画に沿って倉庫部門と物流機能のさらなる拡大を図り、平成三年、右の新門司物流センターを売却し、現在の被告肩書住所地に約二六億円を投じて、新たな新門司物流センター(以下で「新門司物流センター」というときは、新設後のものをいう。)を完成させ、従前の新門司営業所と倉庫を拡充したほか、本社機能を付加した。

右費用のほとんどは銀行等金融機関からの借入で賄われた。

なお、この間に神戸営業所及び東京営業所を開設している。

しかるに、その後のいわゆるバブル崩壊によって、右荷主の増産計画は延期され、その他にも取引先から運賃減額を迫られるなどして、その結果、売上は低迷し、新門司物流センター新設時予定していたところを大きく割り込むこととなった。すなわち、計画では、平成三年度に約一七億円、平成四年度に二一億円、平成五年度に約二五億円の売上を見込んでいたが、平成三年度以降の売上は概ね一七億円程度で推移し、損益も平成三年以降は大幅な損失(平成三年度が約一億八八〇〇万円、平成四年度が約一億円、平成五年度が約三億一六〇〇万円)を計上するに至った。

もっとも、被告は、表向きは損益計算書等の粉飾処理を行って損失が明るみに出ないようにしていた。

(二) 被告では、右のような経営状況を背景に、平成四年から経費費(ママ)節減等に乗り出すこととなり、管理職レベルで種々の検討策が練られた。そして、先ず、同年八月から一年を限って取締役ら役員の報酬一割を減額し、従業員に対しては、売上増及び経費節減を呼びかける同年九月一二日付「緊急通達」を発した。この間、本件の地域手当の減額(ただし、八万五〇〇〇円から八万一〇〇〇円への減額案)等も検討されたが、結局見送られることとなり、従業員に対しては平成五年一月八日付「通達」でその旨報告された。また、同年二月、被告は希望退職者五名を募集したり(応募者なく、同年三月再募集している)、さらに、同年八月の取締役会では一年を限って社長である被告代表者池添巳次(以下「社長池添」という。)の役員報酬を月額五〇万円にするとの決議がなされるなどした。

(三) 被告は、従業員に対する平成五年一二月四日付「特報全従業員に告ぐ」において、平成六年一月から地域手当や残業手当等の改定及び廃止等を断行する旨通告(ただし、右特報にはその具体的内容は記載されていない。)した。

次いで、被告は同月八日頃、従業員宅へ個別に賃金減額等に対する理解を求める旨記載した書翰を発したうえで、同月二七日付「トレーラ、トラック乗務員各位へお知らせ」と題する書面で、従業員に対し、本件賃金改定を通告した。

なお、同日付で管理職や事務職、パートへの賃金改定等も公表されたが、そのうち部長から課長までの管理職については月額五〇〇〇円の消費税手当が全額削減、一般事務職については同手当が五〇〇〇円から二五〇〇円に減額というものであった。

神戸営業所には、このころ、所長清水(同人は平成六年八月から被告取締役でもあった。)以下数名の事務職のほか、一五名程度の乗務員が勤務(そのうち三名は本社からの長期出張)していたが、本件賃金改定に対しては、本社からの長期出張者をも含めた乗務員が全員反対であり、平成六年一月、原告矢野の発案で、乗務員全員が署名し、高速道路を使用せずに一般道を走行するなどして経費節減に協力するから本件賃金改定を実施しないでほしい旨記載した要望書を社長池添宛てに提出した。これに(ママ)受けて、本社からは管理部長西村が派遣されて来て、原告ら神戸営業所配属の乗務員らと個別に面談し、本件賃金改定を断行すること、不満であれば退職しても構わないことなどを通告した。原告矢野は、西村との面談の際、賃金減額に期限を限ってほしいなどの要望も述べたが、西村から拒否された。

結局本件賃金改定は実施された。

(四) 原告らは、被告の強硬な姿勢に抗しきれないことから、全港湾労組に加入して池添分会を結成し、全港湾労組委員長から被告宛に平成六年四月五日付で池添分会結成の通知及び組合側の要求等を記載した書面を送付した。

池添分会結成以後、春闘や夏季一時金交渉をめぐって労使交渉がもたれるようになったが、原告ら労組側は、交渉の前提として賃金を一旦改定前に戻すことや社長池添との面談等を要求し、被告はこれを拒否し続けたため、労使交渉は進展しなかった。このような状況下、被告常務取締役三好が全港湾労組委員長藤本弘和と面談した際、藤本から、賃金減額に納得できれば再建にも協力するからとの申出を受けて、被告の経理内容を分析できる資料を要求された。このため、被告専務取締役田中(ママ)康正(同人は、同年八月、被告の主要取引金融機関から、期間三年を目処に被告に出向として派遣されて来ていた者で、被告では社長池添に次ぐ地位にあり、経営全般を統括していた。)は、同年一二月、若干の書類(<証拠略>)を持参して藤本と面談したが、持参した資料では同人の納得を得ることができず、より詳細な資料の提示を約した。

しかるに、右交渉経過を持ち帰った田平は、社長池添とも相談した結果、それ以上の説明は必要ないという社長池添の意向もあって、その後、藤本に対し、資料を提供することはなかった(<人証略>は、資料を提示しなかった理由については、右同旨を証言するとともに、平成七年一月の震災及びその後の対応に忙殺されたからであるとも供述しているが、時期的な前後関係等からして右供述部分は措信できない)。

2 次に、本件賃金改定前後の神戸営業所の営業状況について判断する。

(一) 被告は、神戸営業所は赤字対(ママ)質であったと主張し、その根拠として部門別損益試算表(<証拠略>)や神戸(大阪)営業所空車回送実績調べ(<証拠略>)等を提出している。

これらによると、

ア 平成四年度の売上高は四億五六五三万七〇〇〇円、部門別単独経費三億三七五一万四〇〇〇円で、一億一九〇二万三〇〇〇円の利益があるものの、他に一般本社費一八九三万五〇〇〇円、車両減価償却費四三三八万四〇〇〇円、支払利息六九六万九〇〇〇円があり、同年度の利益は四九七三万五〇〇〇円に過ぎない。

イ 同様に、平成五年度は、売上高四億一八八四万六〇〇〇円(自車一億七八一八万八〇〇〇円、傭車二億四〇六五万八〇〇〇円)、部門別単独経費三億八六〇九万六〇〇〇円、一般本社費一六〇七万六〇〇〇円、車両減価償却費三八九七万八〇〇〇円、支払利息三四九六万四〇〇〇円、空車回送費二〇〇九万七〇〇〇円で、結局七七三六万五〇〇〇円の損失を出している。

ウ さらに、平成六年度は、売上高四億三一八七万八〇〇〇円(自車一億九八一五万六〇〇〇円、傭車二億三三七二万二〇〇〇円)、部門別単独経費三億九一九九万二〇〇〇円、一般本社費一五六二万五〇〇〇円、車両減価償却費二二〇三万五〇〇〇円、支払利息二〇〇四万六〇〇〇円、空車回送費一九五三万四〇〇〇円で、結局三七三五万四〇〇〇円の損失を出している。

なお、証拠(<証拠・人証略>)によれば、右損益試算表は、田平が本件裁判資料として作成したものであり、損益算出に当たっては、売上高は、運送距離に従い、神戸営業所が受注した下り便については新門司港に陸揚するまでを神戸営業所の収益に、本社が受注した上り便については、神戸港に陸揚するまでを本社の収益に各算入し、他方、一般本社費及び支払利息は各部門別の売上に比例して配布し、減価費については、基本的には、神戸営業所で使用するヘッド(トレーラーの牽引車)の減価償却額全額と、台車の減価償却額中、全社のトレーラー売上に対する神戸営業所の売上比率に従って分配した額とを合算した額を配布し、空車回送費については、本社と折半した額を配付(ママ)したというのである。また、減価償却費は、過去の償却不足を考慮することなく当期の期首簿価に定率法に従った償却率を乗じて算出されている。

(二) 右のような処理に対し、原告らは、減価償却の対象となっている車両中には、実質的にリース契約で使用しているに過ぎないものが多数含まれており、これらについてはリース料を損金として経理すべきであって、保有資産として減価償却を行うことは許されないと主張しているが、証拠(<証拠略>)によれば、被告の車両取得契約には長期の代金分割払いとなっていたり、リース会社が介在したりするものの、代金完済後の所有権取得が予定されていることが認められ、実質的に長期分割の所有権留保付売買契約であって、これを被告が自己保有資産として減価償却処理することが許されないものではない(原告らは、大蔵省通達等を引用して被告の処理の不当を主張するが(<証拠略>)、原告らが引用する通達等は、むしろ短期または長期のリース契約としての損金経理がなされている場合に、課税上、当該取引をその実質に従って、売買契約や融資契約として取り扱うべきことを定めたものであり、リース料を損金経理すべきことを要求しているものではない。)と解されるので、この点についての原告らの主張は採用できない。

(三) しかしながら、右の点はともかくとして、前記部門別損益試算表の神戸営業所の損益算定には、以下の点で疑問がある。

ア まず、被告は、平成三年度以降の損益計算書等を粉飾しているため、信用できる会計書類は資産表(<証拠略>、被告によれば、これらは個々の取引伝票等の原始証票から取り纏められたものであるという。)以外にないなどと主張し、自ら自社の会計処理の杜撰さを利益に援用するという異例な主張をしているのであって、前記部門別損益試算表の損益が果たして各部門の損益を正確に反映したものであるとの保証はない(僅かに、減価償却費算定根拠が<証拠略>に添付されているに過ぎない)。

例えば、売上高については、被告は前記のとおり、本社と神戸営業所とで走行距離に従っての割り振りを行ったというが、膨大な数量に昇ると考えられる個々の輸送について、真実、個々的に走行距離の割り振り処理を行うことが可能であったか疑問なしとしないし、平成五年度と平成六年度とでは部門別の単独損益では大差ないにもかかわらず、最終的な損益は二倍以上の較差が生じるなどしており、その信憑性には基本的に疑問がある。

イ また、売上高の自車、傭車の内訳についてみると、平成五年度及び六年度の内訳をみる限り、いずれも傭車による売上が自車によるそれを上回っている。他方、右年度の自車傭車数をみると(<証拠略>)、平成五年度が自車三四四九台であるのに対し傭車は四一四台、平成六年度が自車四三九一台であるのに対し傭車は四八四台となっており、これを売上と対比させるときは、平成五年度は自車一台の売上が約五万一六六七円であるのに対し傭車一台のそれは約五八万一三〇〇円、平成六年度は自車一台の売上が約四万五一二八円であるのに対し傭車約四八万二八九七円となって、およそ考えがたい較差を生じさせている。

ウ 空車回送費についても、前記空車回送実績調べ(<証拠略>)では、その支払額には何らの限定もなく各年度の金額が計上され、田平も、ロ事件に関する仮処分事件の証人尋問において、部門別損益試算表の空車回送費は本社と割り振っての金額ではなく全額であると供述していた(<証拠略>)にも拘わらず、(証拠略)に添付された神戸(大阪)営業所空車回送実績調べ(<証拠略>と同内容の書面であるが、作成日付と末尾に注が付記されている点が異なる。)では、「注2」として、支払額は本社と神戸営業所とで折半した旨付記され、(<人証略>)も証人尋問で同旨を供述するに至っている。また、これらの空車回送実績調べには、平成四年度の空車回送費は二一〇九万円とその額が算出されているにもかかわらず、部門別損益試算表の平成四年度には、空車回送費は計上されておらず、部門別単独経費に繰り込まれているで(ママ)はないかと推測されるが、そうだとすると平成五年度、六年度のみ別途計上した趣旨は不明である。以上のとおり、空車回送費の正確性や支出額の割り振りについては、少なからぬ疑問がある。

エ 減価償却費の算出方法についても、過去の償却不足を考慮することなく、当期期首の簿価に償却率を乗じる手法が採用され、これが部門別損益試算表にそのまま採用されているところ、減価償却が当期の資産の損耗を計上するという損益計算上の費用算定方法であるとともに、資産の更新等に備えた利益留保の意味をも有することからして、通常の決算処理であれば、現に過去に償却不足がある以上、将来の買換え等に備える意味でも、また、保有資産の期首簿価を恣に操作することは妥当でないという意味でも、かかる手法の合理性を否定することはできないであろう。

しかしながら、部門別試算表は、本件で神戸営業所の業績を判断するための裁判資料として作成したものであるというのであるから、利益留保の観点を容れる余地は少なく、本来、当期の減耗分を可能な限り算定して算出すべきところ、仮に便宜的に減価償却の手法を用いるとしても、定率法で過去の償却不足を考慮することなく通常どおりの減価償却計算を行ったのでは、結局過去の償却不足(留保すべき利益額)を当期の費用として計上することとなって適正な処理とはいえない(仮に、定率法による減価償却の手法を借用するのであれば、過去の償却不足に応じて過去の損益を修正するとともに、本来当期が負担すべき費用のみを算定すべきであろう)。

オ 一般本社費や支払利息(その殆どが新文字(ママ)流通センター建設のための借入金に対するもの)は、各部門の収益と直接の対応関係にはなく、部門別の損益計算を試算する上でこれを考慮することは妥当でない。

右にみたとおり、部門別損益試算表には種々の疑問があり、その記載内容をもって、そのまま神戸営業所の営業実績であると認めるには足りないというべきであり、そうすると、これらの証拠から神戸営業所が業績不振であったとは断じ難く、他に神戸営業所の業績が不振であったと認めるに足る証拠はない。

二  そこで、右一及び二(ママ)に認定の事実等を前提に本件賃金改定の有効性について判断する。

本件賃金改定は、就業規則に根拠を有すると考えられる乗務員の賃金基準を一律かつ一般的に変更しようとするものであるところ、これによって、原告らの既得の権利が奪われることになったとしても、統一的かつ画一的な運用を建前とする就業規則の集合的な処理の要請からして、その内容が合理的なものである限り、原告らにおいて同意しないことを理由に改定された賃金基準の適用を拒否することは許されないところである。もっとも、右合理性の判断においては、改定の必要性及び内容の両面からみて、原告らが被ることになる不利益の程度を考慮してもなお、変更の必要性を是認できるものであることを要するが、とりわけ、賃金という労働者にとって重要な労働条件に関する変更の場合には、高度の必要性に基づいた合理的な内容を有するものであることを要すると解すべきである。

前記一に認定の事実によれば、被告は、新門司物流センターの新設により多大な負債を抱えるに至ったこと、その後のバブル崩壊によって右新設時の業績予測が大幅にはずれ、主として借入金の利息返済等に苦慮するようになったこと、したがって、その責任の所在はともかくとして経費節減その他の経営合理化を迫られる状況にあったこと、業績悪化が現実化してきた平成四年に入って社長以下役員の報酬減額その他の経費節減等の経営努力を行ってきたこと、被告の窮状は折に触れ従業員にも社内報によって周知されていたこと等を認めることができる。

これに対し、まず、本件賃金改定の内容をみると、地域手当は地域調整としての意味で支給されていたものであるとしても賃金の一部を構成していることに変わりはなく、また、残業手当は走行実績に応じて支給されるものであり、基本給が九万円余りと低額に押さえられていることもあって、乗務員の賃金の少なからぬ部分を占めており、従って地域手当のうちの三万五〇〇〇円減額及び残業手当の一割減額というのは、原告らが当時取得していた後述の賃金手取額からしてかなりの減額になるというべきであり、原告らの負担は相当大きなものがあったと認められる。

しかるに、被告が本件賃金改定を従業員らに通告したのは、実施前一か月に満たない平成五年一二月に入ってからであり、しかも、被告は、事前に従業員、とりわけ地域手当減額という大きな影響を受ける神戸、東京営業所配属の従業員の意見を聴取することはなかったばかりか、平成六年一月に原告ら神戸営業所配属の従業員らによる経費節減についての協力申出と反対の意思表明がなされ、期限を限定してほしいとの要望が出されたにもかかわらず、これに全く配慮することなく本件賃金改定を強行している。また、原告らが池添分会を結成したのち、種々交渉の末、全港湾労組から賃金改定の必要性を説明できる被告の経理内容を明らかにした資料提出を要求され、被告は、その場ではこれを承諾しながら結局反故にしているのであって、その対応はあまりに一方的であり、労使間の信義に悖るものというほかないのみならず、本件賃金改定の具体的な必要性について、十分な裏付けを有していなかったものと推測されてもやむを得ない。

この点に関して、被告は、神戸営業所が業績不振であったことから、同営業所配属の従業員の地域手当等減額には合理性があるというが、前記二(ママ)に説示したとおり、同営業所の業績不振を認定するに足る証拠はないばかりか、被告が同営業所の業績不振を証明するものとして提出した証拠は、いずれも、田平が派遣されてきた後、同人が本件裁判資料として自ら作成し、またはその作成過程で被告従業員に命じて作成させたと推認できるものばかりであり(一例として<証拠略>)、本件賃金改定実施前、被告が同営業所の業績等の詳細な分析のために作成したと認められる資料等の存在は証拠上認められない。

他方、被告がその関連会社をして実質的には被告の営業活動を(ママ)一部を担当させるなどして利益の一部を分散してきたことは明らかであるが、原告らから、この点を指摘されながらも、その詳細を明らかにしようとはしない。

以上のとおりであり、少なくとも本件賃金改定実施前後の労使間交渉における被告の対応は著しく不当というべきであるし、また、改定内容をみても、原告らが被ることになる負担は大きく、これに対して、被告には、単なる一般的な窮状という以上に、本件賃金改定を是認するに足る具体的な必要性や妥当性が存したことが必ずしも明らかであるとはいえず、結局、本件賃金改定には高度の必要性に基づく合理性があると認めることはできない。

よって、本件賃金改定は違法であり、無効というほかない。

四(ママ) 原告らの未払手当額等について

1 原告らは、本件賃金改定により賃金を減額支給されたことを理由に、減額部分の支払を請求しているところ、証拠(<証拠略>)によると、原告冨永を除く原告らは本件賃金改定によって地域手当を減額支給されたことが認められるが、原告冨永は被告に入社した平成五年九月の当初から地域手当は五万円しか支給されておらず、本件賃金改定によって地域手当を減額されたものとは認められない。

よって、原告冨永を除く原告らが地域手当の減額分の支給を求める請求部分はいずれも理由があるが、原告冨永の同請求部分は理由がない。

2 原告冨永を除く原告らが、残業手当の減額分の支給を求める請求部分はいずれも理由がある。

3 原告冨永を除く原告らが、手積卸手当の減額部分の支給を求める請求部分について判断するに、証拠(<証拠略>)によれば同手当に関する本件賃金改定は、携わる貨物の重量によって改定単価が異なっており、一〇トン以上につき一五〇〇円から二〇〇〇円への増額、一五トン以上については三〇〇〇円で据置、二〇トン以上については五〇〇〇円から四〇〇〇円に減額とされているところ、別紙手当金一覧表の右原告らが平成六年一月以後現に支給を受けた手積卸手当額が四〇〇〇円の倍数となっていないことからすると、原告らは二〇トン以上以外の手積卸作業にも従事していたものと推認され、これらを分別して認めるに足る証拠もない。そうすると、結局、右原告らが二〇トン以上の手積卸作業に従事した事実の有無及び回数等は不明というほかない。

よって、右原告らの手積卸手当の減額部分の支給を求める請求部分は理由がない。

(ロ事件)

一  前記(イ事件)一及び二の認定事実等に加え、証拠(<証拠・認証略>)によれば、以下の事実を認めることができる。

1 原告らは、前記のとおり平成六年四月に全港湾労組に加入し池添分会を結成(結成当時の分会員一〇名)して、その旨、被告に通知した。

しかるに、本社では、平成六年五月一四日従業員で組織する池添労組の結成大会が開催されて、池添労組が結成されたが、組合結成の発案者は社長池添であり、池添労組執行委員長や副委員長も社長池添から予め指名されていた従業員が就任した。

なお、被告は池添労組とユニオンシヨップ協定を結んでいる(なお、このユニオンショップ協定については、同組合員らは、組合を脱退するときには被告から解雇される制度であると理解させられていたふしがある)。

当時池添分会には加入していなかった神戸営業所配属の運転手山下実ほか二名は、右同日、被告から本社へ出張するよう命じられ、旅費の支給を受けて、北九州市に赴いた。小倉駅には被告常務取締役三好が迎えに来ており、本社に案内され、社長池添と会談させられた。会談の席上、山下らは、社長池添から、池添労組結成大会に参加するよう持ちかけられたが、明確な意思表示をしないでいたところ、それ以上の勧誘はなく、夕刻まで従業員宅で待機させられ、神戸に戻った。(<証拠略>によれば、社長池添は大阪府地方労働委員会の審問において、山下らに池添労組結成大会への出席を勧誘したことはないと供述していることが認められるが、社長池添の右供述は信用できない。)

2 平成七年一月、阪神地区は震災に遭遇したが、神戸営業所自体は大きな被害を受けることはなく、そのまま営業を継続していた。尤も、神戸港の港湾施設は破壊されていたため、原告矢野らは従前フェリーによる航走をしていたところを陸路で輸送に当たるなどして対処した。

被告では、阪九フェリーの接岸港が神戸港から泉大津港に移転したことなどから、神戸営業所を移転させることとし、賃借による駐車場用地等確保の上、同年二月末日で神戸営業所を閉鎖し、同年三月一日プレハブ四棟建の大阪営業所を新規開設した。これに伴い、原告ら神戸営業所に配属されていた従業員もそのまま大阪営業所に配転となった。

なお、震災後の神戸営業所及びこれを引き継ぐ大阪営業所の業績は、同年三月前半期一時的に前年同期を上回ることがあったが、それ以外は、前年同期を大きく割り込む状況が続いており、とりわけ六月及び七月の売上減少は前年同期との日別比較で概ね四〇パーセントから六〇パーセントにも及ぶというものであった。

このような大阪営業所の状況に対し、同年五月二二日開催された被告役員会(清水も出席している。)では、売上が二ないし三〇〇〇万円に落ち込むとの予測から、六月中旬を目処に同営業所の五〇パーセントの規模縮小と希望退職者の募集が決議された。

3 この間、被告は、平成七年五月一日池添労組との間に、会社再建計画における給与体系の見直しについて協定ができたとして、同月から残業手当の一〇〇円未満の端数整理や手積卸手当の減額等若干の増減を伴う賃金改定を実施し、同月二二日その旨池添分会に通知してきたが、池添分会に対しては事前の労使交渉を行うことはなかった。

また、同月二日開催の被告役員会では、従業員の中に池添労組執行部との思想や意見の相違から退職者が出るということが取り上げられ、社長池添から現執行部の支援が組合育成面から大切である旨の発言がなされている。

他方、同月下旬から同年六月上旬にかけて、清水及び本社労務担当顧問として一時的に雇用されていた丸山某は、原告矢野、原告面出、山下(当時はすでに池添分会員となっていた。)に対し、個別に呼出しあるいはその自宅に訪問するなどして、池添分会からの脱退等を働きかけた。(<証拠略>によれば、清水は大阪府地方労働委員会の審問において、丸山とともに、原告矢野らに面会したことは認めながらも、池添分会からの脱退等の働きかけを行ったことはないと供述していることが認められるが、清水の右供述は到底信用できない。)

4 原告らは、平成七年六月六日、本件賃金改定による本件手当請求訴訟(イ事件)を提起した。

しかるに、被告は、突然、同年六月二〇日、従業員に対し、応募期間を七月一〇日までとして希望退職者を募集してきたが、これに応募するものはなかった。この希望退職募集に対しては、事前協議がなかったとして全港湾労組から被告に対し抗議文が提出されている。

被告は、希望退職の応募期間が経過した同月一一日、全港湾労組及び池添分会に対し、大阪営業所を同月末で閉鎖する旨の事前通知を発し、同月一三日、従業員に対し、同営業所の閉鎖、同営業所従業員は、残務整理の清水以外全員本社へ配置転換すること、本社への赴任日は同年八月七日までとすることなどを通知した。

同月一四日本社から田平らが来阪して説明会がもたれたが、その内容は、冒頭から労使交渉ではないことが述べられ、会社の方針で決定したことであるから閉鎖延期はできないなどとして、従業員に転勤に応じるか退職するかを迫るというものでしかなかった。

これに対し、全港湾労組では、同月一七日、委員長藤本が本社に赴いて田平に抗議文を手交して抗議し、次いで同月二七日及び同年八月一日と続けて被告宛に抗議文を送付するなどしたが、被告は、協議の申入れその他何らの対応もすることなく、同年八月一日付で、原告らに対する配転命令を発した。

原告らが、同月一八日大阪府地方労働委員会に対し、右配転命令がなかったものとして取り扱うよう求めるなどの不当労働行為済(ママ)命令の申立を行ったところ、被告は、原告らには配転命令に応じる意思がないものとして、同月三一日付で原告らを解雇した。

なお、この間、被告では、平成七年八月二七日付で北九州地区において運転手募集の広告を出している。

5 大阪営業所では、原告ら解雇後も、しばらくは傭車営業のみならず自車輸送による営業をも継続しており、少なくとも平成七年中は本社からヘッドごと運転手付きで航走してきたトレーラーで輸送業務に当たったりしており、建物はその運転手の宿泊施設として利用されるなどしていたが、現在では、ほぼ傭車による運送取扱が中心となっており、清水が所長として常駐している。

被告は、現在も大阪営業所の敷地を、駐車場部分も含め、賃借したままであり、月額約二七万円の賃料を支払っている。

震災前と震災後とでは、大阪営業所の取引先にかなりの変遷があるが、輸送量は、新門司流通センター新設を要請していた荷主の増産体制が整いつつあることもあって、自車傭車の輸送台数の合計が、震災前の平成五年が三八六三台、平成六年が四八七五台であったところ、平成八年は三二〇八台、平成九年は八月までで二二五五台と概ね震災前の状況に回復しつつある。従前大阪営業所配属の運転手らが集配に当たっていた東海地区以東の荷は、現在では、静岡県の御前崎港まで航走され、傭車によって集配されるようになっている。

二  以上認定事実によって、本件配転命令及び本件解雇の有効性について判断する。

1 被告は、本件配転命令は、自車輸送の不採算性から、大阪営業所自車輸送業務を本社に集約するためであったと主張し、(証拠略)には右主張と同旨の記載があるほか、(人証略)もその証人尋問において、右主張に沿う供述をする。

しかしながら、空車回送費が利益率を圧迫することは理解できるところであるが、自車であろうと、傭車であろうと輸送の上下一行程に要する費用は同様であるから、上下便の不均衡が生じる限り、空車回送費の発生は避けられないところである。被告は、傭車によって空車回送費を傭車先の負担とし、さらには、台車を賃貸することによる賃料収入まで見込まれると主張するが、他方で、空車回送費を支払うことによって大阪営業所の自車輸送は赤字に転落していたというのであるから、それが真実だとすれば、下請業者にとっても事情は同じはずであり、現在の傭者先運送業者が空車回送費を自己負担し、さらには被告に台車賃料まで支払っているかについては多大な疑問があり、被告らも、自車輸送が傭車に比して経費負担が大きいとの抽象的一般的な主張立証に終始するばかりで、台車賃料の収受を含め、これらの主張を具体的に明らかにする証拠は何ら提出していない。

もっとも、前記部門別損益試算表には平成五年度、六年度において傭車による売上が自車輸送による売上を上回っている旨の記載があるほか、自車輸送閉鎖後の大阪営業所の業績を示す証拠として(証拠略)が提出されており、その平成七年度及び八年度の部門別損益計算書には、赤字が次第に減少してきていることを示す数値の記載があるが、前記のとおり、部門別損益試算表の売上金額には基本的に疑問があるところであり、加えて、証拠(<証拠略>。これらは被告作成にかかるものである。)によれば、平成六年度の傭車台数が四八四台、平成七年度のそれが四七九台とほぼ同水準であるのに、平成六年度の傭車売上は二億三三七二万二〇〇〇円、平成七年度のそれは一億三四四九万五〇〇〇円と大幅に減少しており、また、平成八年度の傭車台数二六七九台、自車台数五二九台とその比率は逆転しているところ、(証拠略)では平成八年度の傭車売上はわずか一億六〇四八万五〇〇〇円(自車売上なし)となっており、矛盾だらけであって、これらの証拠は信用できない。

加えて、被告らは、本件の終結間際に至るまで大阪営業所は閉鎖したと主張していたのであるし、前記のとおり被告らが分会や従業員に通知したところをみても、大阪営業所は残務整理要員を残すほか閉鎖するというものであったのであり、傭車と自車を区別して傭車による運送取扱業に縮小するとは称していなかったことからしても、自車輸送の不採算性を問題にしていたかははなはだ疑わしい。

空車回送費の増大から、自社輸送業務の採算が合わないものであるとすれば、本来、受注調整等により上り便と下り便との不均衡をなくす方向で対処すれば済むことである。この点に関して、田平は、本件ロ事件に関する仮処分事件の証人尋問において、下り便の受注は、原告ら神戸ないし大阪営業所配属の運転手らの仕事の確保のためにやむを得ないものであったなどと供述している(<証拠略>)が、前記認定のとおり、神戸ないし大阪営業所には、本社から長期出張の運転手まで派遣されて配属させられていたほか、証拠(<証拠略>)によれば、平成二年以後も、原告らの入社を含め、運転手らの入退社は頻繁に行われており、人員調整の機会はいくらでもあったのであって、右田平の供述は到底採用できない。

以上によれば、大阪営業所の自車輸送が空車回送費から採算の取れないものであったという被告らの主張は採用できない。

2 次に、被告は、震災後、大阪営業所の業績の落ち込みは予想を超えるものであって、業績回復見込のない危機的状況に陥っていたと主張する。

確かに、前記認定のとおり、震災の影響は重大であって、日別売上の落ち込みも次第に大きくなって行く傾向にあったことは認められるし、その対策として、被告らが、平成七年五月末頃、業務縮小方針を打ち出し、希望退職者を募ったことも前記認定のとおりである。

しかしながら、被告らが大阪営業所閉鎖を決定したのは、平成七年七月一一日に、池添分会等宛て事前通知を発していることからして、同日以前というべきであるが、右事業方針を打ち出してから廃止の事前通知を発するまでには一月半程度の期間しかなく、この間の業績悪化は、当時の状況からすると被告らの予想をはるかに超えるものであったとはいえない。むしろ、希望退職を募ったのが、同年六月二〇日であることからすると、その時点までは未だ事業縮小の方針を維持していたとも解せられるところである。

(人証略)は、この間、何度も役員会が開催されたなどと供述するが、その議事録等審議経過を明らかにする証拠は一切提出されておらず、却って、清水は、大阪府地方労働委員会の審問では、証人として、被告からの通知が来るまで大阪営業所閉鎖は知らされていなかったと証言していたのであり(<証拠略>)、当時、清水は被告取締役であり、事業縮小方針を決めた役員会にも出席していたのであるから、田平が供述するように度重なる役員会が開催されていたとするならば、これに清水が出席しないということは考えられないことであり、右田平の供述は到底採用できない。

また、被告らは、大阪営業所閉鎖と同時に、原告ら従業員全員を本社に配転するとしているのであるが、前記認定のとおり、その後もしばらくの間は、本社からヘッド付きで輸送業務を継続するなどしており(ヘッド付きで台車を航走すれば、その分航走費は増加する)、これら閉鎖に伴う引継等は当然見込まれるところであって、仮に、自車輸送業務を本社に集約する経営上の事情があったとしても、従業員全員を即本社は(ママ)転勤させるまでの必要はなかったはずである。

以上によれば、大阪営業所の自車輸送業務閉鎖の理由が予想を超える業績の落ち込み等にあったとする被告らの主張もまた採用できない。

3 以上のとおり、大阪営業所の自車輸送業務閉鎖の理由として、被告らの主張するところはいずれも採用できないものばかりであり、閉鎖、したがってまた本件配転命令の真の理由は他に存すると考えるほかない。

ところで、前記認定のとおり、池添分会結成の直後には、池添労組が結成されているが、その発案者は社長池添と認められ、その役員選任にも社長池添が関与したり、分会員でない神戸営業所配属の山下らを出張と称して本社に呼び、池添労組結成大会への参加を働きかけたりしているところからすると、池添労組は、社長池添らが首謀者となって、池添分会に対向(ママ)する目的で従業員らを組織しようとして結成されたものと推認される。

これに加えて、その後、平成七年五月頃、清水や丸山が原告らに対する脱退勧誘に当たったりしたことも、清水らの独自の判断でしたものとは考えられず、社長池添らの指示によるものと推認できるし、その頃の賃金改定に関して池添分会と全く没交渉であったこと、大阪営業所の自車輸送業務閉鎖が、原告らが本件イ事件を提訴した直後に、それまでの事業縮小の方針を急遽翻して決定されていること、説明会においても、被告は転勤か退職かを迫る態度で臨んでいること等を総合考慮すると、大阪営業所自車輸送業務閉鎖と本件配転は、全港湾労組及び池添分会を敵視し、憎悪した被告が、本件イ事件を提訴した原告らに対する報復と被告からの排斥を真の目的としてなされたものと推認するのが相当というべきである。被告は、原告らが採用以来関西地区を生活の拠点としてきており、加えて、震災歪間もなくの混乱時にあること等を奇貨とし、原告らが配転命令に応じ得る余地は少ないことから、原告らの排斥を目論み、困難な配転命令を敢えて発した上、原告らがこれを不当として不当労働行為救済命令の申立を行うや、配転拒否を理由に予定どおりに解雇したものというべきである。

したがって、本件配転命令及び本件解雇には、到底正当な理由は認められず、配転命令権及び解雇権の濫用というほかなく、これらはいずれも無効である。

三  なお、被告は、本件に関して前記法律上の主張に要約した点について詳細な主張を展開しているが、これらは、いずれも被告独自の見解であって、当裁判所の採用するところではない。

四  原告らの請求について

1 以上のとおり、本件解雇は正当な理由のない無効のものと認められるから、原告らが、被告に対し、雇用契約上の権利を有することの確認を求める請求部分は理由がある。

2 証拠(<証拠略>)によれば、原告らの平成六年一月分から平成七年四月分までの賃金手取額の月平均額は次のとおりと認められる。

原告面出 三四万六五九七円

(なお、その31分の15は、一六万七七〇八円)

同筒井 四一万一七九八円

(同一九万九二五七円)

同冨長(ママ) 二三万五六二二円

(同一一万四〇一一円)

同矢野 三八万六六七四円

(同一八万七一〇〇円)

同吉田 三五万五〇〇三円

(同一七万一一(ママ)七七六円)

なお、平成七年五月分から、被告の賃金規定が一部改定になっているが、右改定が原告らに対して有効になされたものかについては疑問であるうえ、被告らからはその旨及び原告らの手取額の変更について何ら主張はない。加えて、原告らの未払賃金の請求が、本件賃金改定による一時金部分を含まず、かつ、手取額を基準にしていることなどを考慮すると、少なくとも、平均手取額相当の限度では未払賃金請求権を有しているものと解される。

そこで、これを基準にして計算すると、平成七年九月分から平成九年八月分までの二三か月分の未払賃金額は次のとおりとなる。

原告面出 七九七万一七三一円

同筒井 九四七万一三五四円

同冨永 五四一万九三〇六円

同矢野 八八九万三五〇二円

同吉田 八一六万五〇六九円

よって原告らが、被告に対し、右各金員及びこれに対する平成九年八月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求部分は理由がある。

また、原告らは平成九年八月分につき、同月一五日までの未払賃金に対する同月一六日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めているところ、同年八月分の賃金支給日は翌九月一五日であるから、右半月分(正確には三一分の一五)の賃金について、同年九月一六日以降の遅延損害金支払を求める限度では理由があるが、同年八月一六日から翌九月一五日までの請求部分は理由がない。

3 原告らが、平成九年九月分から被告大阪営業所の原職に復帰するまで(被告は、最終的には大阪営業所を閉鎖していないことを認めている。)の間、毎月一五日限り、前記賃金手取額の月平均額の支払を求める請求部分は理由がある。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 松尾嘉倫 裁判官 森鍵一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例